踏み過ぎても踏まな過ぎでも問題が起きます。

 初めに、レーシングアートの会員ではあり得ない話だと思いますが、パッドの残量をギリギリまで使用するのは、キャリパーに対して問題があります。


 パッドの残量が少なくなると、ピストンが外に多く飛び出して来ます。その事で内部に残るピストン部分は相対的に短くなり、ブレーキペダルを踏んだ時に内壁を傷付けやすくなります。
 新品のパッドの厚みはフロントで10mm以上ありますが、最低でも3mmが限度と考えてください。なお、レーシングアート指定パッドの場合スポーツ走行がメインでも最低2年はモチます。また、メンテナンス時に大抵はこちらで勝手に目視確認しているので、もし、何か異常を感じたり、残量に不安がある場合は伝えてください。

 本題に入ります。チンダル現象を利用したエア抜きをさんざん繰り返して気が付いた事があります。踏み過ぎでも踏まな過ぎでもキャリパー内壁を傷付けていると言う事です。
正確には、踏み過ぎと言うのは、少し違います。ゼロか、100かでガツンとブレーキを踏む事です。これは一般のドライバーが殆ど行なっているブレーキングです。本来、ブレーキペダルの操作は細かい微調整が段階的に必要になりますが、どうも一般ドライバーにはその意識がないようです。また、最近のクルマの場合、完璧なエア抜きを行わないとこの微調整は体感出来ないのも事実です。(=パッドの材質がほぼ100%セミメタルになっている事と、ブレーキの前後バランスをフロント側に傾け過ぎた設計の両方による弊害かも知れません。)
 レーシングアートで、エア抜きを行なったオーナーは、まずこの踏み過ぎによる傷を付け始めます。

外側の薄い青がキャリパー
内側の濃い青がピストンを示しています。

中立状態では、ピストンは浮いた状態になっています。

それまでと同じようにゼロ-100の踏み方で、ガツンと踏んだ時きちんとエア抜きを行なっているので、パッドをきちんと押し込んでブレーキはきちんと作動します。
そのため、瞬間的にピストンは内壁に“突き刺さる”状態になると考えられます。

初めてこの破片を発見した時は、何だ!?と驚きました。ピストンが内壁を削った形だったのです。

しかし、エア抜きを繰り返すと、初めてレーシングアートでフルード全交換を行なったオーナーは、2回目のエア抜き作業で殆どこの破片が出てきます。
個々のオーナーには注意して来ましたが、殆どこのパターンで進むため、公開?で注意を促す事にしました。
※踏み過ぎの場合、フルードも平均以上に汚損が進みます。大きな破片以外に色々な形の破片も数多く出てきて、『うわっ!内壁が減る!!』と叫びたくなります。

街中でもよくキィ〜ィと言わせながらブレーキングしている自称走り屋に出くわします。

この異音はパッドの端のエッジから発生しているのは、良く知られた事です。このエッジ部分を斜めにカットすると殆どの場合、異音は解消されます。
例えて言うなら、黒板にチョークを当ててキィ〜ィと言わせるいたずらをした事があれば、知っていると思いますが、チョークを寝かせてやっても音は出ません。進行方向に対して鋭角に立てると出ます。この時、エッジが細かく黒板面からぴょんぴょんと跳んでいるのです。非常に短いキィ、キィ、キィの断続的な音が結果的にあのみんなが嫌がるキィ〜ィになるのです。
なお、充分な踏力で踏んだ時は、エッジ部分は押しつぶされることで、異音は出ないのは経験した事があると思います。

一方、踏まな過ぎの場合、異音が出ていない時も、パッドがそっとローターに触れているので、同じ事が発生します。
キャリパーの内部では、キィ〜ィとなっている時、ピストンが左右に細かく頭を振っている状態と考えられます。

そのため、内壁を細かく傷付けるようです。
※レーシングアートでパッド交換をした人は経験していると思いますが、今までで一番ブレーキが効くはずです。あまりに効きが強烈なので、それまでのゼロ-100では、簡単にフルロックになるので、ブレーキをそっと踏むようになります。丁寧な操作は必要ですが、そっとパッドをローターに当てたまま、ブレーキを引きずるような操作になっている事があります。

上の画は、踏み過ぎの破片を薄くした物と考えてください。
下はその破片を細かくバラバラにした物です。

ちょうどこのような破片が出てきます。一方、フルードの汚損は非常に少なく殆ど透明です。しかし、この踏まな過ぎのパターンでは破片を全て吐き出させるのは非常に困難です。
ペダル踏み回数を多くしたり、ローターを回転させて、ピストンが動く事で、フルードの内部の流れをなるべく大きくしたり、果てはパッドを押し戻す必要も出てきます。
結果的に作業時間が大幅に延びてしまいます。

 ブレーキは、ガツンでもなく、そ〜っとでもありません。ペダルやシリンダーの遊びがゼロになるまでは、そ〜っと。そこからパッドとローターが触れるまでは少し力を入れたそっとで。パッドとローターが触れたのを確認したら、ググッとリニアに力を入れていきます。タイヤがロックする寸前で、少し力を抜いてグリップさせ、またググッと踏み込むを繰り返して、最短時間で止まれるようにします。
 もちろん、急ブレーキではありません。
 イメージ的には、ブレーキペダルを踏んでいる時間を如何に短くするか?です。ペダルを踏んでいる間はローターもキャリパーも温度がドンドン上昇してフルードも含めて傷めます。
 ペダルを離した瞬間から、温度が下がります。走行中であれば、かなり短い時間でブレーキ系統の温度が下がり、次のブレーキでは最良の効きが得られる筈です。

※ここに記載した内容は、お仕着せではありません。ただ、何度も作業を進めていて『勿体ないな〜!』と感じるので、クルマを傷めない=長持ちさせるためのアドバイスだと思ってください。
また、「
そんな事まで注意しながら運転しなければいけないのか!」と感じる会員の方は、なんら改める必要もありません。(=ただし、エア抜き作業時間が延びると言う事は、工賃が上がると言う事であり、キャリパーが傷むと言う事は、近い将来、キャリパー全交換が待っていると言う事は認識しておいてくださいね!
あくまでも、自分の判断で行なってください。