任せたい?

 独立当初、修理工場の一部を間借して仕事をしていました。その工場の社長に紹介して貰って、パーツ屋さんから必要なパーツを仕入れていました。

 ある日の夕方遅く、リフトアップしたクルマの下で、ああでもないこうでもないと、作業していたら、パーツ屋さんがやってきました。

 「山崎さんは、ロータリーエンジンしかやらないのですか?」と聞かれ、一番データを持っているのが、ロータリーエンジンだから、今はロータリーエンジンがメインだけど、他の車輌も自信の持てるデータが揃ってきたら、やるつもりですよ。」と答えました。
 すると、「その時は、自分のクルマをぜひやって貰えませんか?」と言うのです。しかし、私は内心むっとしていました。というのは、ろくに私の行なっている作業を見たこともないのに、いい加減な”お世辞”を言っていると思ったのです。
 そこで柔らかく「なんで?」と聞いてみたところ、意外な答えが帰ってきました。「こういう仕事をしていると、クルマ業界の裏側が、嫌と言う程見えてきて、大切にしている自分のクルマを預けるのは、恐いんですよ。」「中には、いい加減な所は本当にいい加減で、とても自分のクルマを任せられないんです。」「でも、山崎さんは、パーツを注文する時に、外から見えないパーツまでもきちんと指定して、注文してきますよね。」「だから、この人は、大丈夫だ。」「安心して、任せられる。と思うんですよ。」と。

 それを聞いて、ある意味ゾッとしました。ユーザーというのは、私達業界の内側の人間に比較すれば、知識的には劣ります。しかし、この人のように、こちらが予想もしなかった切り口で、判断されてしまうことがある。
 今までも、結構そういう経験はしてきました。ユーザーの観察力にドキッとさせられたことは、数多くありました。ユーザーの前では、気を抜いたり、油断したり出来ないのです。

 ある意味、ユーザーと対する時、真剣勝負だと自分に言い聞かせています。相手は、こちらが考えている以上に真剣です。それに対するには、こちらも真剣に成らざるを得ない。
 決して、「そんなもんだよ。」とかいい加減な答えをしてはいけないし、まして、ごまかすことは絶対にしないと決めています。