SZさん夫婦。

 初めてSZさんに会ったのは、AKさんの紹介でした。古くからのユーザーのAKさんと一緒にやって来たのですが、SZさん自身は何で、レーシングアートに来たのか良く解っていませんでした。
 実は、以前よりAKさんから、「良く知っている人がフルタービン仕様のFC3Sに乗っているのだけれど、非常に遅い!」「本人は、速いと思っているようだけど全然遅い!」「とっても良い人なんで、何とかして下さい。」と言われていたのです。

 SZさんに対する初めの印象は、「この人は、チューニングカーの意味がよく解っていないまま、チューニングカーに乗っている人なんだな。」でした。
 案の定、自分のクルマがほんとに遅い!ノーマルエンジン、ノーマルタービンのF3Sより遅い位なのに!!全く気付いていない様子でした。

 本当のことを告げるのは、さすがの口の悪い私も、かなり悩みましたが、しかし、いつものように(?)はっきりと、きっぱりと、「このクルマは、遅いでしょう!」と一発。
 「えっ?」と驚いた表情のSZさんに、一見しただけで、何故、私がそういう判断をしたのかを、エンジンルーム、テールパイプ、タービン廻りなどの具体的な箇所を一つ一つ指差しながら、次から次へと、数え切れない位挙げていきました。途中、なんとか小さく反論しようと試みるSZさんに対して、「それは、多分、こういうことだと思いますよ。」と、柔らかい口調で、完全否定。(ほんとにひどいショップでしょう?)
 最後には、「今日預けていっていいですか?」と言わせてしまうような説明をしてしまいました。心の中で「ちょっとだけ言い過ぎたかな?」と思って、「私の言うことを、そのまま信じるのではなく、せめて一晩だけでも冷静に考えて、それでも正しい。と判断したら、その時、あらためて作業を依頼して下さい。」と言いましたが、時既に遅く、強引にSZさんはFC3Sをレーシングアートに置いていってしまいました。

 作業終了時に、詳しいコメントを書いて渡すことにしました。実は、クルマを引き渡すまでに、何度か途中経過を電話で話したのですが、「前のショップの作業がいい加減で、損をしてますよ。」と話しても、「あ〜、そうなんですかあ〜?」と言うだけで、特に悔しがるでもない。
 その態度に、こちらの方が、だんだん腹が立ってきて、「よりハッキリと具体的に、伝えなくてはいけない。」などと妙に変な正義感みたいなものが、表に出てきました。

 クルマを引き取りに来たSZさんに、その報告書を手渡し、更に追加説明を行ないました。その日、悪いことにSZさんの奥さんまで、来店していたのですが、私の予想に反して、その辛辣な報告書を奥さんに手渡し、奥さんも読んでしまったのです。私は少し動揺しながらも、SZさん本人に説明を続けていたら、「ノーマルのFC3Sの方が、まだましだ!」というコメントに差し掛かった奥さんは、眼に一杯涙を溜めて「今までやって来たことは、全て無駄だったんだね?」と、力なくSZさんに笑い掛けました。

 さすがの私も「まずい!かなりやり過ぎた。」「どうしよう?」と思いました。「そう思っても、言ってしまったものはしょうがない。」とすぐに気を取り直し説明を続けます。
 しかし、実は一番驚いたのは、この後でした。「今まで、掛けた分(多分350万円位と勝手に予想?!)の費用で収まるなら、うちのFC3Sを元気にしてやって下さい!」一転して、とても元気な眼をして奥さんが、言い放ちました。SZさん本人も大きくうなづきました。

 新車価格で、200万円そこそこのクルマに、一度多額の費用を掛けておいて、また更に投資する。そのエネルギーに対して、唖然としてしまいました。 当然、350万円出すのであれば、新車のFD3Sを購入することを薦めましたが、「今現在、FC3Sより好きなクルマはないし、このクルマを元気にしたいのです。」「このクルマをあと10年20年乗り続けたいのです。」「よろしくお願いします!!」と、とても硬い意志を持って、きっぱり言われては、もう何も言えません。「それでは、まだ幾ら掛かるかは解りませんが、危険度の高い物から一つ一つ片付けていきましょう。」と答えざるを得ませんでした。実際今では、とっても良い状態でSZさんのクルマは、元気に走っています。

 ここで、誤解のないようにはっきりと言っておかなければいけない話があります。
 あるユーザーが、お金を幾ら掛けたと話すと、「良いですね〜。お金があって。」と羨ましがる
おバカなユーザーがいます。
 しかし、実際には、それらのユーザーは、本当に節約して、着るものも買わず(ここ何年か服を買っていない。と言うユーザーも多い。)、自分の立てた目標に向かって、計画通り、貯金していくのです。
 私から見れば、「良いですね〜。」と羨ましがるおバカなユーザーの方がよっぽど
無駄な贅沢をしているものです。

 そんなユーザーにとって、クルマは、マニアとして接する対象ではなく、「完全な趣味」なのです。例えば、釣りを趣味にしている人は、欲しい釣り竿を手に入れる為に、やったこともない個人輸入にチャレンジしたりします。レーシングアートのユーザーには、そんな強い意志を持った人達が増えています。
 結構私の(?)愛すべきユーザー達は、私のことを信用してくれて、給料とか懐具合とか、平気で話してくれるので、そのユーザーがどれ位努力しているのか?私の方では充分把握しているつもりです。
 だからこそ、その努力を解っていない人に適当な判断をされたくないのです。そして、その大切なお金を投資してくれるユーザーの期待を裏切らないように努力しているつもりです。