水平、垂直の感覚を掴む訓練
何年か前に、テレビで見たことです。
キャノンか、日立製作所か忘れましたが・・新入社員の試採用期間の3ヶ月間にただひたすら平ヤスリを使って水平加工の技術を訓練する。と言う話がありました。多分、今ではもう止めてしまったと思いますが・・
多分、やらされている新入社員にはその作業の重要性は理解できなかったことでしょう。(=もしかしたら、いじめられていると感じた新入社員も居たかもしれませんね。)
実は、この訓練は技術の仕事をする人達にとって非常に重要な訓練なのです。否、技術で生き抜く企業に入ったのであれば、例え、事務系の社員にも必要かもしれません。(=現在、このHPを読んで貰っている技術系の人達は心して読んでくださいね!もし、訓練したことが無い人は今すぐ始めましょう!)
1.平坦に削る技術
単純に平面に対する感覚ですらかなり難易度は高く、そうそう簡単には出来る技術ではありません。コツはただひたすら身体に染み込ませるしか方法はありません。
2.直定規とシックネスゲージを利用します。
初めから高価な直定規でなくても構いません。なるべく真っ直ぐな文房具の定規を買ってきてください。シックネスゲージは必ず必要です。
3.材料
生の鉄が一番です。100mm×30mm×30mm位が適当です。
軟らかすぎる材質だと反って難しくなります。もちろん、ステンレスなどはもっと難しいのですが・・・(=自分でやってみればすぐに解ります。)
4.ヤスリ
半丸ヤスリが良いと思います。平ヤスリは結構面が出ていない事が多いようです。半丸の平側は結構平らです。
5.万力
万力はあまりに安物は薦めません。結構、重要だと言う事は後々解ってきます。
6.実際の作業に入ります。
ただただ、削って測定して、また削って・・を繰り返します。
コツは、下記の通りですが、とにかく時間を掛けるしかありません。
A.力を入れすぎない事です。
殆ど力は要りません。意識の中で水平をイメージしながらヤスリを動かします。なお、ヤスリは押す時にだけやや力を入れますが、引きの時は力を入れないでください。本来ヤスリとはそう言うものです。
B.測定して、出っ張って要るところに集中しない事です。
何度も何度も失敗して、その内イライラしてきます。「何故、こんな単純な事ができないのか!!」と自分に腹が立ちます。しかし、そこでぐっと堪えてください。出っ張り部に意識が行くと今度はそこが凹みすぎます。
出っ張り部分の認識は必要ですが、そこだけを削ろうと意識すると失敗します。
“全体を削りながら出っ張り部分をほんの少し多く削る”とイメージしてください。
C.一度うまくいっても油断しないでください。
ごく希にすぐにうまくいく時があります。しかし、それはまぐれです。一日2時間作業して、最低で1ヶ月、通常は3ヶ月は掛かると覚悟してください。
また、暫く作業しないとすぐに出来なくなってしまいます。
時々作業をしておく癖を付ける必要があります。
D.初めから、高い目標を立てないでください。
シックネスゲージは、0.03mm位まであるのが普通ですが、初めの内は、0.1mmから始めてください。
自分は器用だと言う自負のある人は0.05mmからでも構いませんが・・初めから意気込みすぎると長続きしませんよ。気楽にいきましょう!
この作業を行なってみれば、次の事に気が付きます。
A.平面を加工するのは結構難しい!
どこかの加工業者に作業を依頼するだけの人は、どこで失敗するのか?どういう不具合を生じやすいのかを知らないものです。
B.自分が今まで如何に力を入れすぎていたのか。
出っ張り部を少しだけ削るつもりがザクッっと削ってしまうのが普通です。「えっ!??」と驚いてください。その経験の積み重ねが必ず後で役に立ちます。
C.万力でくわえる力の入れ具合で、材料の平面が変形する。
鉄は硬い物と認識していると思いますが、実際には結構軟らかく、変形し易いものです。
ある程度きちんとした万力(=道具)が必要な事を思い知らされる筈です。(=いつも同じトルクでくわえる事が出来なければいけません。)
また、例えば2本のボルト&ナットで締め付けるマフラーの取付時などでも両方を少しずつトルクを上げていき、均一なトルクを掛けて仕上げる重要性にも気が付くはずです。
(=大体のメカニックは、一気に1本ずつ規定トルク締め付けていると思いますが、その方法では合わせ面に必ず隙間が発生します。)
D.その他・・もろもろ・・嫌な気分を味わいます。
自分の犯した過ちに嫌と言う程気が付きます。それは人それぞれで異なると思います。
しかし、気が付いた事が重要です。まず、自分の意識が劇的に変わらなければ、その先には進めません。
でも・・この作業を行なっても何も感じなければ、残念ながらあなたは技術者としては、不向きかもしれません。また、この記事を読むだけでへぇ〜で済ませる人も自分のクルマでさえもいじらないでください。
例え、どんな部品でも、基礎が出来ていなければ、即、死亡事故に繋がる事もあります。その部分は絶対に守ってくださいね!
コンピュータのはじき出した数値だけを見て、全てを判断しようとしてませんか?そのプログラムを作成した人の技量を常に読みながら答えを判断してますか?その大元が水平加工の技術にあるのかもしれません。
一口に水平加工と言いますが、非常に難易度の高い作業です。下手するとその加工を完成できない人もあり得るのです。
更に、その加工面を100分の一→更に1,000分の一に仕上げていく技術も必要になってきます。
このHPでよく“面研”が必要!と出てきますが、実はこの作業が一番難解な作業なのです。うっかりした人達(?)は、“面研”を軽視しがちです。ある程度理解した人達でも、「わざわざ自分が行なう加工ではない!」と高を括って加工屋さんに依頼するのが普通でしょう。
しかし、一度は自分で加工してその難しさを体験する必要があります。
何故、水平加工が難しいのか?を理解していなければ、その加工自体を生かせるその後の作業など出来るはずはないのです。
面を出す!その重要性、難易度を十二分に理解していなければ、このHPの作業の“真似事”は絶対にしないでください。
ただの猿まねだと、必ず痛い目に遭いますよ!
最後に、水平加工を体得できるのに最低必要な時間は、ほぼ毎日訓練して、3ヶ月は掛かります。それより短い時間で体得できたと思った人はただの勘違いだと思ってください。