クラッチ油圧ラインの緩み

 主に、60万台の2002年5月以降のFD3Sで大きく緩んでいますが、実は40万台後半になると少しずつ緩んでいるので、きちんと増し締めする必要があります。

 症状としては、“きちんとエア抜き作業を行なうとはっきりと解るのですが・・
1.何度も何度もエア抜きを完璧に行なっても、急にクラッチミートポイントが微妙にずれます。その発生頻度は非常に少ないのですが、それが反って嫌な感じのクラッチフィーリングを生みます。
2.実際のエア抜き作業中、レーシングアートではクラッチエア抜きは、まず56回(=2セット)以上のエア抜き作業をした後、23回を1セットでエア抜きを行いますが、この時、8回目、13回目、21回目で小さなエア(=直径0.2mm以下)が1〜3個ほど出ます。エア抜き作業がまだ完了しない内には、3〜8回目、13〜17回目あたりに比較的大きく、数も多くエアが出てきます。もちろん、この作業を完全にクリアして後の話です。
3.この症状は、何とか1〜2セット何事も無かったとしても、念のためもう1セットとやると、13回目あたりにちょろっと出てきます。このままエア抜き作業を終了すると、2週間以内に変調をきたします。「何だか?不安定かな??」と言う状態になってしまいます。しかし、気になって、その後何度エア抜きを完璧に行なっても直りません。

 もし、上記のような症状があれば、クラッチ油圧ラインの緩みが考えられます。しかし、良く読んで貰うと理解出来るはずですが・・この症状を見極めるには当然の事ながら、先にきちんとしたエア抜き作業が出来ている事が最低限の条件です。(=通常、23回を1セットで、『今日は気持ちよくスムーズに作業出来た!』と言う時でも10セット必要です。まして、初めての作業ならその3倍は必要になるかと思います。→気合いを入れて作業しましょう!!)

クラッチ油圧ラインの全体図です。

 最近の車輌がそうであるように、FD3Sでもクラッチとブレーキのフルードのリザーブタンクは共有です。
 左に伸びるホースがリザーブタンクに繋がっています。
 クラッチペダルを踏むと、クラッチマスターシリンダーがフルードを押し出します。押し出されたフルードは、クラッチマスター
金属パイプホース金属パイプクラッチレリーズシリンダーへ伝わります。
 クラッチレリーズシリンダーは、押し出される事でクラッチカバーのバネを押し上げて、クラッチカバーとフライホイルに挟まっているクラッチディスクをフリーにする事で、エンジン〜ミッションの動力伝達が切れます。

A

Aは、クラッチマスターシリンダーの油圧出口部分です。2箇所を締め付ける必要があります。

 まず、上の14mm角のボルトですが、そのまま締め付けるとパイプも回ります。茶色い矢印で示した部分にちょうどぴったり合う板きれを準備してください。それを挟んでから締め付けます。メガネレンチを使用します。スパナは厳禁です!

 次に手前の10mm角のボルトを締め付けますが、ここも普通のスパナで締めてはいけません!ホームセンターなどで必ず“ブレーキパイプ用”スパナを購入してください。

B

クラッチホース部分です。

 画の上にかすかに見えているのが、ブーストセンサーです。
 バネ式ロックがきちんと掛かっている事を確認してください。少しでも浮いていると、ホース毎回ってしまいます。ボディに付いているステー自体を破損する事もあります。ここも当然工具は“
ブレーキパイプ用”スパナです。

C

クラッチホース下側です。

 ここは、リフトアップして作業します。重要な事は、ステーがきちんとミッションに固定されているかどうかです。もし確認しないで回してしまうと、ステーが曲がって修復が大変になります。
クラッチホースなどをどこかで、交換した事がある場合には特に注意が必要です。たまたまだとは思いますが、ここ3ヶ月で3回この部分を失敗した状態でレーシングアートにやってきたクルマがあります。(=それも結構大きい“いわゆる”きちんとしたディーラーで作業したとの事ですが・・・)

D

クラッチレリーズシリンダー部分です。

 右に見えるのが、ミッションです。スペースが狭い事もあり、通常の工具での締め付けは非常に難しいので、少しトライしてダメなら諦めましょう無理な作業はその後の修復が困難です。
 通常、この部分の締め付けは、クラッチレリーズ本体を外してから締め付けますが・・それも
コツが必要です。そのまま締めるとパイプ自体が回ってレリーズ本体の位置が狂ってしまう事になります。

作業の基本
1.クラッチパイプの締め付けトルクは、1.3〜2.2kgf・mです。しかし・・増し締めの時は角度で見た方が良いでしょう。30〜45°くらいにしてください。
→しかし、締め付けた時、回り方が硬い時には、無理矢理締め付けないでください。新車ではあり得ませんが、パイプが
斜めに入ったまま締め付けられている事が多く、もし運悪くそう言う状態のクルマであれば、増し締めするのは自殺行為です!パイプ断裂もあり得ます。
2.工具は、きちんと揃えましょう!揃える気が無い人は絶対に作業しない事!=つまり、作業の基本が解っていないからです。
3.一見、簡単に思える作業程、難しいものです。「何だ!簡単そうだな!」と感じた人も作業しないでください。もし、万一断裂させるとクルマは動かせなくなります。ローダーを頼むと余計な出費がかさばりますよ!!

 実は、ここまで注意を促すのにはがあります。
 ブレーキホースやクラッチパイプの交換作業は、『
メカニックだったら誰でも出来る!』とつい3ヶ月前まで思っていました。例えば、あなたが水道屋さんでバイトする事になったとしましょう。初日の朝、パイプのカットの仕方、カット部分の処理の仕方、接着剤の塗り方、乾かし方、繋ぎ方・・時間にして1時間も掛からないでしょう。でも、基本中の基本でこれが解らないと水道屋の仕事はできない
 ブレーキホースやクラッチパイプもそうです。基本があり、それは普通のメカニックであれば、口で言えばすぐに理解出来てすぐに作業できることなのです。
 そんな“
簡単な作業”を失敗してしまう。・・・そんな時代(?)になってしまったようですね。実に嘆かわしい!!

左の画が、失敗例です。

 少々解りづらいとは思いますが、ネジ部が斜めに入っています。この部分は細目のネジ山になっているので、力を入れて挿入してしまうと斜めに入ってしまう事があります。(通常、細目にすると言う事は、イコール重要な箇所と言う事です。これも基本中の基本で、細目ならそれだけで注意して扱うのが普通のメカニックです。)
 もちろん、そこが注意点だと解っていれば、出来て当たり前!誰も誉めたりしてくれません。
 ついでに言うと、エア抜き用のブリューダプラグの穴にフルードが見えていますが・・これも緩んでいました。ここも
締め過ぎて当たり面にキズを付けた模様です。
 こんな作業をするディーラーがいたとは・・それも続けざまに3箇所も(=もちろん全て別々のディーラーです。)

 因みに、この状態にしてしまったら、全てのパーツを新品にするしかありません。パーツ代は2万円前後ですが、作業はかなりキツイ!
 「
自分で作業してみたら失敗したから・・お願いします!」と持ってきても知りませんので、あしからず??

 クラッチホースとパイプを固定するステーの事でおまけです。

ミッションを降ろした時の状態です。

 ステーが根本から曲がっています。無理な力を掛けた証拠です。
 また、片側を穴に引っかけてもう一方をボルト締めしている純正のやり方にも少し問題はあります。

修正後のステーです。

 新品を取る時間的余裕が無かったので修正しましたが、何の問題もないはずです。
 もちろん、“
常識的なトルク”以上で締め付ければ、また曲がってしまいます。(=このトルクを馬鹿チカラと言います??)