コンプレッションの数値に見るブロアモーター対策修理の効果

 まず、一例目は、60万台のFD3Sです。
 新車納車後約1週間で、レーシングアートでオイル交換などの基本メンテナンスを行ない、3,219kmまで慣らしを行なった後の数値が
1.です。特にフロントにバラツキが大きいのが特徴です。この頃の新車ではこの位のバラツキが出るのは、ごく一般的になっていました。(=40万台前半の新車では、初めから3.に近い数値が出ていた物ですが、新車のエンジンを組む担当者が交代してしまったのではないか?と考えられます。)
 
2.では更に数値が下がっている事から、慣らしの失敗が一番考えられました。そのため、出来ればバキュームホース対策をしてもう一度ゼロからの慣らし運転を心掛けて貰うように伝えて、その結果が3.です。
 理想だけを言えば、新車の慣らしを始める前にバキュームホース対策を行なうべきです。
と言うのは、バキュームホース対策を行なう事でブーストの不安定さが殆ど消え、アクセルの開度だけに集中する事で慣らしを行なえます。そうする事でこのような理想的な慣らしを行なう事が出来るのです。新車納車時からレーシングアートに来て貰っているオーナーでは殆どこのパターンになっています。

 しかし、4.になって約2,400キロ走行で最大0.7キロの落ちが発生しています。この時点で明らかな異常が発生している事は誰の目にも明らかです。しかし、残念ながらこの時点では、レーシングアートにはまだ原因を断定できる程の証拠は揃っていませんでした。(=何となく、この辺と言うところまでの探求でしかありませんでした。)
 その後、他のクルマの修理や電磁波の異常さを発見して、ブロアモーターの対策修理を行ないました。

 その結果が、5.です。対策作業後殆ど走行していない状態でもここまで回復しています。ブロアモーターを対策修理することでコンプレッションが回復する事が解ります。
ただし、この数値の上昇には少し種があります。測定時のセルの回転数がフロントで言うと、
251から267rpmに上がっているのが解ります。この上昇で若干の数値アップはあり得ます。しかし、その理由での数値アップは多く見積もっても0.1もないと考えていて、更にこのセルの回転数のアップは、特にバッテリーを充電したりした訳ではないのです。実は、ブロアモーターが駄目になっていくとバッテリーに余計な負担が掛かって回転数が落ちると考えられます。
 つまり、この
セルの回転ダウン自体が既に大きな問題となると言えるのです。

フロント

リア

走行距離

測定日時

備考

1.
9.5/9.7/9.7 277rpm 9.8/10.1/10.0 283rpm 3,219km 2002年5月18日

2.
9.6/9.5/9.6 271rpm 9.9/9.9/9.8 275rpm 5,462km 2002年12月28日 バキュームホース対策を行なう。

3.
9.9/10.0/10.0 274rpm 10.0/10.1/10.0 277rpm 9,595km 2003年4月5日 ※コンプレッションは理想に近い状態まで回復。

4.
9.3/9.5/9.4 251rpm 9.5/9.4/9.6 257rpm 11,992km 2003年8月28日 急激な落ちが見られる。最大0.7キロの落ち。
ブロアモーター対策修理及び、グリル雨漏り対策を行なう。

5.
9.8/9.6/9.6 267rpm 9.7/9.5/9.7 271rpm 13,659km 2003年12月14日 対策直後の30km走行でここまで回復している。

 次は、50万台FD3Sです。
新車でオイル交換を済ませ、オイル、プラグメンテンスを行ないながら慣らしの5,546kmまで走行し、一回目の測定では新車にあり得ない程の低い数値が記録されました。この時、オーナーの慣らし失敗を一番の原因と考えていて、再度、数千キロ慣らしを行なうように伝えました。
 しかし、少しバラツキが小さくはなりましたが、その後もあまり高い数値は記録されませんでした。
 そればかりか・・走行距離が増す毎にドンドン数値は確実に下がり続けます。途中、電気的なトラブルがあるのは間違いないと確信して、何度か点検を行ないました。しかし、はっきりしないトラブルに多額の修理代を払う訳もないので、中途半端な点検になっていました。

 オーナーには、『コンプレッションの数値が8.0キロを切ると、独特のトラブルが出てきて多分、精神的に耐えられないと思うので、その頃に大々的な点検をするので覚悟しておいてね!』と伝えて、その時期を待っていたところ・・先に、他のクルマで原因を発見する事が出来て、このクルマも対策修理を行ないました。
 1〜6まで、着実に落ちているのが、解ります。6の直後、オーナーから独特な症状の報告が入ります。それも数回・・多分、この時点で8.0キロを切ってしまったと確信しました。本当のところ、その時点での感想は、『あ〜あ・・間に合わなかったか〜?』でした。
 第一例のように走行距離が短い場合、ブロアモーター対策修理を行なう事で、100%近く数値を復活させられる自信はありますが、正直、5万キロ以上、しかも殆どがスポーツ走行であれば、復活させるのは絶望的です。ただ、低下していくのを防ぐ自信はあったので、現状維持でも、エンジンのオーバーホールよりはまし!と考えていました。
 ところが・・嬉しい誤算でした。6の直後に8.0を切っていたはずの数値は、対策修理後僅か50km走行で8.0キロ以上に上がっています。その後800キロ走行後の測定では、更に上昇しバラツキがより小さくなって来ている事が解りました。(=
この時点でのアップした数値はまだ誤差範囲を出ていません。今後更に測定を行なった結果をお知らせする事になります。
 このクルマはかなり厳しい条件でしたが、ここまで回復する事が解って、今では殆どのクルマのコンプレッションを上げる(=復活させる)事が出来ると考えています。
※もちろん、新車からのエンジン或いは、メーカーリビルトエンジンが最低の条件です。技術力のないショップでのエンジンでは、無理と考えてください。まして、2次エアバルブの裏側に大量のカーボンを溜めてしまう(=他の項目を参照してください。)デキソコナイ?エンジンでは到底無理ですから・・

フロント

リア

走行距離

測定日時

備考

1.
9.2/8.8/9.0 252rpm 9.7/9.6/9.7 254rpm 5,546km 2000年5月25日 新車慣らしは、オイル、プラグ交換のみで行なう。
数値も低く、データのバラツキが大きいのが気になる。

2.
8.9/8.9/9.0 266rpm 9.3/9.4/9.3 262rpm ?km 2001年4月2日 走行距離のデータ無し
リアが下がったが、数値のバラツキは小さくなる。

3.
8.4/8.4/8.6 264rpm 8.9/8.8/8.7 269rpm 14,204km 2001年5月1日 スポーツ走行が多いものの落ちが大きい。

4.
8.6/8.5/8.5 255rpm 8.6/8.6/8.8 258rpm 21,917km 2001年10月7日

5.
8.2/8.3/8.1 247rpm 8.5/8.3/8.3 264rpm 49,827km 2003年8月1日

6.
8.2/8.2/8.1 239rpm 8.4/8.4/8.3 238rpm 52,634km 2003年11月12日 この後、コンプレッションが8.0キロを切った時の特有の症状が出始める。
ブロアモーター対策修理及び、グリル雨漏り対策を行なう。

7.
8.1/8.1/8.0 245rpm 8.0/8.1/8.0 248rpm 54,555km 2004年1月30日 対策修理後、走行距離は約50km
この後、500km以内で特有の症状が1〜2回出たが、その後は出ない。

8.
8.2/8.1/8.2 242rpm 8.2/8.2/8.1 244rpm 55,336km 2004年3月5日 コンプレッションの数値が上昇し、バラツキが小さくなってきている。

因みに、下の表は同じオーナーがこのクルマの前に乗っていた40万台前半のFD3Sの数値です。1で6万キロ以上の走行距離でも、9.5キロ前後の数値を記録しています。この数値が正常に近い物であって、この数値より低いクルマは全て異常であると言っても過言ではないと考えています。

フロント

リア

走行距離

測定日時

備考

1.
9.6/9.6/9.4 273rpm 9.3/9.6/9.4 273rpm 63,515km 1999年5月2日

2.
9.4/9.1/9.3 271rpm 9.1/9.4/9.1 273rpm 69,165km 1999年8月8日 1999年当時、このクルマは某ショップオリジナルのアルミラジエターからの冷却水漏れのトラブルが激しく出ていました。
多分、このトラブルがここまで急激に数値を落としたと考えています。
※現在、レーシングアートでは重傷の冷却水漏れは、コンプレッションを下げる事が解っています。

 最後に、レーシングアートできちんとメンテナンス作業を行なって頂いているオーナーで、この記事を見て不安を覚える必要はありません。きちんと最低条件を守って頂いていれば、エンジンを壊す事は殆ど無く、嫌な想いをする事もまずあり得ません。ただし、中途半端な作業で終わっているオーナーの車には責任を負いません。また、忠告を無視して、トラブルが残っているのに激しいスポーツ走行をしているオーナーにも責任を負いませんので、あしからず・・・

※コンプレッションは、本来一度下げてしまうと“絶対に”上がって来ない事が常識です。試しにどこかのショップに聞いてみてください。メーカーでにさえも「上がる事はない!」と言い切る筈です。
しかし、巷の常識はレーシングアートには通用しません。
それは、全ての要素を均一にする努力をしてデータを取り続ければその内はっきりする事です。その非常識な、しかしオーナーにとっては非常に嬉しい結果は、きちんとした作業を施す事で簡単に達成出来ます。古い常識を大上段に掲げてきたショップは、今までその簡単な努力をしてこなかっただけの事です。

※コンプレッション測定について
測定機器自体の精度はかなり高く、定期的にメーカーに点検を依頼していれば、機器自体の誤差は無視出来ます。一番重要な条件はバッテリーです。出来れば信頼性のある新品で、ターミナル接触不良が無い事(
=これは別の項目でも述べましたが、かなり難しいので心してください。また、他のバッテリーからジャンプする方法は不可です。きちんとクルマに搭載してください。)、オイルはレーシングアート指定オイルが確実ですが、無ければ必ず新油を使用し、一度暖機して15〜20分後に測定します。注意が必要なのは、プラグ穴に差し込むセンサーアダプターの締め付けトルクです。プラグ穴、ねじ山、ワッシャ部の埃を綺麗に除去して正規トルクの上限側で締め付けてください。
これらの条件をきちんと守れば、測定誤差は0.2キロ以下に抑えられます。
因みに、他の某有名ショップでも誤差範囲はプラスマイナス1.5キロあります。かなりの測定回数をこなした、真面目なショップでも1.キロを切る事は難しいと考えています。
ついでながら・・この誤差範囲を知るのは非常に簡単です。同じショップで測定を何度も行なってください。もちろん、その測定の間に他の作業をしないでです。そうすると、昨日は9.5、今日は8.0と言う事になる場合が普通に起きます。その差が、測定誤差になるのは言うまでもありません。
更に、時々見掛ける「
変換表で幾つでした。」と言う話は全くお話になりません。測定誤差をきちんと抑えられないのに、変換するとはおかしな話です??
※何事も、信じ過ぎない!事が重要です。どんなに信頼している所でも時々チェックを入れる位の慎重さが必要ではないかと、レーシングアートでは考えています。