アイドル調整の魔法

 既に、有名になった感のある“アクセルペダル、パタパタ法”がスロットルの動きをスムーズにする事でクルマ全体の調子が良くなると考えるのは、非常に“浅はかな結論”です。
 もちろん、動きが軽くなったから、クルマ自体も軽くなったという事もゼロではありませんが、実際に大きな部分を占めるのは実は“電気=エンジン制御系統”にあります。

 スロットルの機械部分(各リンケージ類、ダッシュポッド、サーモワックスなど)の動きがスムーズになる。+スロットルセンサーの電気的出力がスムーズになる。
アイドル調整を行なう電気的パーツ(バイパスエア・コントロール・バルブ、インジェクターなど)のECU制御の応答性がスムーズになる。
電気的な部分での作動不良によるECU制御に関するエラーが無くなる。
制御に正しく反応する事で、理想に近い制御(=充分なトルクと速い制御)を維持出来る。

 これらの事を常にイメージしながら、スロットルの動きをスムーズにする作業を行ないます。簡単にイメージすると言っても簡単ではありません。実際に、スロットルを完全に分解して組み直し、指先だけでスムーズに動くように調整していく。この作業を何度となく繰り返さないとイメージする事はできません。(=キャブチューンを真剣に行なった経験を持っているメカニックには、案外たやすい事です。エンジン部分もさることながら、実際にあと1馬力を稼ぐには非常に重要なポイントだったりするのです。)
 インジェクター制御になって、機械的な重要部分を知らない人が多くなってしまいました。確かにインジェクター制御はクルマ自体を便利にしてくれました。しかし、根底にはあくまでも機械自体の性格や調整方法を知っている必要があります。そして、それを知っている事は、まともなメカニックであれば当然であって知らなければ恥ずかしいと思って当然です。

 一般ユーザーの中でも本当に真剣に作業を行ないたいと考えるのなら、解体屋さんにでも行って中古のスロットルを買ってきて全てのパーツを分解して、それらを丁寧に磨いて、もう一度正確に組み直して、指先だけの軽い力でスムーズに引っかかり無く動くようにする作業を繰り返すと、ある程度の中身のあるアイドル調整作業が出来るかも知れませんね。
※綺麗に磨くとは、カーボンやスラッジなどを取り除く事を指します。決してゴシゴシ磨かないでください。特にシャフト類を磨くと隙間が出来てそこからエアが漏れて、アイドルは滅茶苦茶になります。また、あくまでも練習として行なってください。実際に自分のクルマのパーツを使用すると再使用不可!になります。
実際、初めて行なう分解、細組立は殆ど失敗に終わるはずです。初めからうまく出来る人などいません。失敗を繰り返す内にコツを掴めるようになるのですから・・
 

 ついでに、よく見掛ける駄目ショップのありがちな失敗例を揚げておきます。
 典型的な例としては、フルコン装着時にそのトラブルは発生します。フルコンではアイドル制御の部分のパターンを殆ど削ってしまっているため、緻密なアイドル調整は出来なくなっています。そのため、エア・アジャスト・スクリュを目一杯締め込んでいる事が非常に多くなっています。
 この事実も、それをやらかしたメカニックがスロットルの構造自体を全く理解していないと言う事を物語っています。
 エア・アジャスト・スクリュの先端は緻密な隙間を形成しています。力任せに締め込む事でその緻密な部分に深い傷を付けてしまいます。一旦、傷が付いてしまうと修正は殆ど無理で、新品のスロットルを購入するしか手はありません。
 傷が付いて、凸凹の隙間をエアが通り抜けますが、その時エアの流れには渦が発生し、どんなに注意深く調整しようとしてもリニアな制御は不可能になってしまいます。
※空力理論はここでも重要です。出っ張りがあればそこで渦を巻いて空力を大幅に落とす事は誰でも理解している筈ですが、このような細かい部分でも余計な渦が生じる事で理想的な調整など出来るはずもありません。また、微少な構造部なだけに反って悪影響は大きく出ます。細かい部分程理論的なツメ?が重要になります。

 まあ・・でも、こんな大切な部分に深い傷を付けられても気が付かないオーナーにも責任はあるので、どちらも責められないと言うのが本当でしょうか?

 このように、一般ユーザーが見えない部分、到底理解出来ない部分で、あなたのクルマはとことん傷め付けられています。しかし、上記の例を読んでいて、「そう言えば・・・??」と思い当たる人達も少なからず居ると思います。フルコンを入れたらアイドルが不安定になってしまい、何度も調整をし直して貰っても一向に良くならず、挙げ句に「あなたのクルマだけ変なんですよね〜?」と言われ、そして確かに同じショップで作業したのに他の知人のクルマは絶好調??と言う経験をしている人。
 本当に注意しないと真実は見えてきません。真実を見ようという努力をしないと到底見えるはずもありません。でも、だからと言って諦めてしまうのなら、初めから見えないままの方が幸せです。

 あなたが、通い詰めているショップの言い訳?で満足していて、頭の片隅のどこかで「何か、変だな〜?」と感じながらも、その疑問を追求する努力をしたくないと考えるのなら・・
 “魔法は、魔法のまま”の方が本当の幸せかもしれません。
 真相が全て幸せな結果を生むとは、限りません・・・残念ながら・・・