作業の基本は、ボルトをきちんと締める事につきます。

 ある程度知識のある人は反って疎かにしがちな事ですが・・誰が何と言おうと“作業の基本はボルトをきちんと締められる事”です。

 “きちんと”と言うのは、結構難しい話です。レーシングアートのユーザーは既に経験済みの人も多いのですが、「何故?こんな作業でパワーが出るの??」と言う事がままあります。
 つい先日も、クラッチが滑りまくって(?)どうしようもない状態で来たユーザーには、先に少しだけその辺りの話をしましたが、本人には伝わらなかったようで、作業が終了して、家に帰ってすぐに驚きの感想を送ってきました。「
パワー系は一切いじっていないのに・・・??

 でも、当たり前の事です。例えば、そのクルマがパワーやトルクが出るのには当たり前の理由があるのです。個人売買で買ったそのクルマは前オーナーがいろいろ装着してしまっていました。
 アイドリング音を聞いて、『
ああ・・排気漏れしてる訳ね!』と既に気が付いていたのです。それもかなりひどい排気漏れでした。だから、作業前に少しだけ注意を促したと言うタネ(?)があったのです。
 ついでに言うと、排気漏れはあちらこちらから発生していました。

排気漏れの実例:(=本文中のユーザーとは異なります。)

フロントパイプとスポーツ触媒間:
ノーマルのフロントパイプ内径とスポーツ触媒の内径が異なります。そのため取付け時に“きちんと”中心を出して(=芯出し)締め付けなければ、隙間が発生してしまいます。その辺りの注意を怠り、適当に締め付けた結果です。


スポーツ触媒とリアメインマフラー間:
こちらは内径は全く同じなのに・・やらかしています。それぞれの製品はメーカーが異なります。そのためフランジ面はそれぞれ反り具合が異なります。(=真っ平らなフランジはそうそうありません。)その場合の対処方法は、やや高めのトルクで潰れてシールするタイプのガスケットを場合によっては、2枚重ねて締め付けます。

スポーツ触媒のヒートインジケーター用の取り付け穴を塞がなかった例です。:
車輌は60万台のためにヒートインジケーター自体がありません。本来ならここもきちんと塞ぐのが“
当たり前”の作業ですが・・作業したメカニックは排気漏れの重要性など知る由もない!と言うところでしょうか?

 排気漏れは、どんなに微少な物でも必ずパワー、トルクを落とします!!
 そんな常識を押さえていないメカニックでは、パワー系と関係ない作業をしたのにパワーが上がる?と言う訳の解らない結果を生む事は不可能です。
 ついでに言うと、「
パワーを上げようと考えて、マフラーを交換したのに反ってパワーダウンした??」と感じている人達の大部分はこれと似たような作業結果になってしまっている事がままあります。

 ボルトを締める・・・
準備:
締め付ける物同士の当たり面を確認して、必要なら面研します。因みにレーシングアートの作業では、75%以上の割合で面研を必要と判断し、実行しています。
1.
ボルトで締め付ける物がフリーな物の場合、必ず芯出しが必要です。通常ボルト穴は、ボルトの径より結構大きく開けられています。その中心をイメージしてください。縦横、上下、斜め全ての方向に動く幅を確認して、全ての方向の中心に持っていきます。(=口で言うのは簡単ですが、これはかなりの経験が必要です。因みに私は『1/100のオーダーまで合わせるぞ!』と言う気合いで作業しています。)
2.ボルトを手で締まる処まで締めます。もし、万一途中で硬くなるようであれば、すぐに緩めて再度締めて行きます。2〜3回トライしても硬いようなら、タップを切り直します。
面倒臭くても、無理矢理、工具でねじ込んではいけません

3.手で充分締めると、残りの締め付けはまず360度回す事はないはずです。大体は45度〜120度で収まる筈です。
4.締め付けは、出来る限りトルクレンチを使用します。特に初めの内は体感で解るはずはありません。馬鹿みたいに(?)何でもかんでもトルクレンチを使用していると、その内大体のトルクが体感で解るようになってきます。しかし、当然ですが、動力系統(=回転部分)などはどんなに自信があってもトルクレンチを使用します。
トルクレンチの使用方法も充分慣れてください。締め付ける位置を常に一定にします。例えば、ボルトの右側水平位置にするとか・・です。以前自分でホイルナットをトルクレンチで締めて来た人のトルク範囲がプラスマイナス4kgf・m以上ずれていて、原因は締め付ける位置がばらばらだった原因の事がありました。トルクレンチが“きちんと”直角にならないのがその大きな原因です。それと・・よく「カチャカチャ・・」と凄い勢いで言わせて締める人を見かける事もあります。これは、トルクレンチの構造や原理が解っていない事を周りにばらしている事になります。比較的ゆっくり「カ・チ・」と言わせてください。
それと、カチと言わせてから回さない事も重要です。カチで力を瞬時に抜きます。
特に重要なトルクを掛ける時は、ボルトのネジ山に硬めのオイルを塗る場合もあります。→一般の人には「えっ!」と思われるかもしれませんが、非常にシビアな場合程、オイルを塗る事でネジ山が擦れる摩擦を下げて正確なトルクを得られるようにします。ロータリーエンジンのテンションボルトなどがそれです。

 結構・・シビアでしょ!
でも、これは“
当たり前”と考えてください。特別な事ではありません。全ての作業で最低限必要と認識してください。
 あちらこちらで自慢(?)してまうが・・私も本来怠け者です。でも、これらの事を当たり前と思えなければ、良好な結果は導き出せません!
 結果本位で、作業すればあなたも自然となるはずです。経験を積んでいけば、“
当たり前!”と思うようになる事でしょう!それまでは・・・泣いてください!