電気修理の実際(フロントハーネス破損!)

 中古車で40万台のFDを購入したTKさん。
 バキュームホース対策を行なった直後に
このクルマは、少しだけ電気系統のトラブルを抱えているようです。
265馬力が達成出来ませんでした。
ただし、この状態でもすぐにエンジンを破損する程のトラブルに発展する事はないと思います。
そのため、最低一年は様子を見ていきましょう。
万一、途中で大きなトラブルに発展しそうな時は“すぐに作業しましょう!”とアドバイスしますから、その時までは、多分・・・
と、話したのに・・・・

 何とTKさんは、この夏のボーナスが出ることが決まった途端に作業予約を入れてきてしまいました。
 「
えっ??何で???」「もう少し後にしてよ!」と、驚いたのはこちらの方です。

 後で聞いたら、「レーシングアートでは、もう、電気修理はやらない!って、言うといけないから、そうなる前に依頼したんです!」と。
 鋭い??と言うか・・・
 そろそろ、『絶対!!!やらない!!!』と言ってしまうかも???

 TKさんのクルマは、見た目とても綺麗(=事故の痕が殆ど見られない。)でした。
 しかし、じっくり観察していくと・・
1.インナーフェンダーのクリップが一個だけ中途半端に浮いていた。(=もし素人でクリップを外すと必ず綺麗に押し込んでいますが、板金のプロがよくやる手抜きです。→絶対に緩まない所までしか止めない。)
2.左右のフロントフェンダーがほんの少しだけ、シーラーの塗り方が異なっていた。(=これは非常に綺麗で丁寧な鈑金屋と思われます。)
3.フロントハーネスをECU付近で観察すると、絶縁テープの巻き方が少し新品と異なり、テープ自体が少し浮き上がっていた。
4.何より、作業中間報告で「大きな電気的なトラブルがない!と言うのは、“嬉しくない!”」と言う返事を貰った事がここまで作業を進めた理由です。

 しかし、TKさんのFDは電気系統の修理をかなりの技術力を持った電装屋に依頼した“臭い”がします。
 これは私の独断ですが・・・
日本電装の正規サービスセンターでハーネスのチェックを行なったと思われます。テーピングの方法や、テープ自体がそう物語っています。
 しかし、逆に困った事になってしまいました。
 電装屋のプロは、「
正常に走れば良い!」と考えて修理しています。
 しかし、それではいけないのです。レーシングアートの修理は『
落ちた性能を元の性能に戻すために修理する!』なのです。

 困った!困った!修理出来る人が他に居ないのか・・・・?

絵1

フロント左側のインナーフェンダーを外したところです。
フロントハーネスに黄色い絶縁テープが巻いてあります。しかし、これだけでは補修の痕と断定できません。
1.上側の矢印にあるクリップの左右を黒い絶縁テープで止めてあるのが問題です。新品なら絶縁テープを一回で全て巻いてあるので、この部分が補修の痕です。
2.右側の矢印の部分では、コルゲートチューブからハーネスがはみ出している事とテーピングが施していない事からこの部分を補修して膨らんでしまったハーネスを納めきれなかったと思われます。

絵2

ECU周辺部のカプラーを外して、インナーフェンダー側に引きずり出します。
すると、室内部すぐの所を黄色い絶縁テープで
補修してあります。
この部分は、腕の良いはずのプロにしては、かなり汚いやり方をしてあり、この絵のような引き出し方法を取らなかったと想像出来ます。

絵3

綺麗に巻いてある絶縁テープを外していきます。
この作業も、
前作業者の補修方法を観察するため出来るだけ丁寧に行います。

レーシングアートで作業する場合、非常に重要なポイントは、前作業者の技能レベルや細かい癖や手抜きパターンを推測しながら、観察する事です。特にパターンを推測する事が大事です!

絵4

絵1の上側の矢印部分の→黄色い絶縁テープ→黒色絶縁テープ→コルゲートチューブを外したところです。(この部分では、皮膜は4層構造になります。)
一番下層の黒い絶縁テープは大雑把に束ねるのが目的ですが、こんな風に
浮いた状態の筈はありません。この箇所も前作業者が補修した痕です。

→ここまできて、以前ハーネスの作業を行ったのは間違いありません。少しでも怪しいと思われる部分を全て裸にしていかなければなりません。

絵5

その作業の後はこんな風に絶縁テープの山が出来てしまいます。
この状態だけを見て、大体のユーザーは「
これは!何をやっているのですか?」「え〜!電気修理??」「見るだけで嫌になりますね!」「絶対、やりたくない作業ですね!」って、必ず言います。しかし、ここまではまだまだ全作業行程の1/5も終わってはいないのです。

絵6

さすがにこの作業は“職人”と言われてもしょうがない作業です。3本の指を使って丁寧に破損箇所を探していきます。
基本的に破損箇所は硬くなっています。その感触を確かめながら
丁寧にしごいていきます。(硬い=変性している=電気抵抗が変化している。)
この作業は、“
精神的肉体的共に充分に充実している”必要があります。
実は、この日90%位の充実度のため次の日に2回確かめの作業を行う羽目になってしまいました。=本当に命を削っての作業になります???
しごく時、必ず軍手を使用します。指の間で滑らせるためです。素手では無理です。

絵7

その血の出るような努力(?)で見つかった破損箇所です。画像では解り難いと思いますが、事故の衝撃で配線同士が強い力で押しつけられて、その結果、配線の中の銅線にダメージが入るのです。
今回、ユーザー自身がかなりの気合いが入っていたので(?)、100%の作業にする事にしました。
全てのダメージ箇所を修理することにしました。

絵8

配線の塩化ビニール被覆を銅線を決して(!)傷付けないように注意しながら(=ここで傷を付けたら何の意味もありません。)、剥いていきます。

絵9

ハンダを盛ります。(→万一ツノが発生したら、もう一度やり直します。)
基本的にハンダごてを裏から当てます。表側からハンダを溶かし込んでいきます。この時、ベストな温度タイミングで溶かし込みますが、もし、
うまく溶け込んでいかなければ、ダメージはかなり大きく、この部分は使用できないと言う結論になり、ダメな部分を充分カットして、新品の配線を継ぎ足すことになります。
ダメージの大小の判断は今のところハンダの溶け込み具合が一番正しいと思われます。破損箇所から少しずつ離れた箇所を目視とハンダ溶け込みで調べていき、完全に問題がないと言う所までカットしていきます。
今回の作業では、非常に珍しい事ですが、カットする箇所は殆どありませんでした。

絵10

ハンダの上から、シリコンテープを巻いていきます。
本来、このシリコンテープは防水の目的で使用する物です。
そのため、巻いていく時は、空気がなるべく入らないように作業していきます。
ただし、レーシングアートでこのシリコンテープを採用している理由は現時点までの作業で一番“
ノイズ”を遮断する能力が高いためです。

絵11

更に、アセテート製絶縁テープを巻いていきます。
このテープの採用も“ノイズ”対策が理由です。
通常の塩化ビニールの絶縁テープは、ほんの気休め(?)にしかなりません。

絵12

やっとここまできました。
配線を少しずつ束ねていきます。基本的に元通りに戻す訳ですが、
少しだけ工夫していきます。
ノーマルの取り回しでハーネスが無理な力が掛かっていた所を直しておきます。
→通常ノーマルの取り回しは完璧に近いのですが、数%の確率で「う〜ん・・」と言う箇所があるので、この際ついでと言うことで・・やってしまいます。

絵13

一番下層の位置決めテーピングが終わったところです。
グリーンのテープで今回の破損箇所を示してみました。
8箇所です。
延べ100本の配線の内、破損本数は46本、1本で数カ所破損している配線もありました。
今回、大容量の電源線が多く補損していました。常時12V、イグニッション12V。更に多くの信号線もやられていました。

絵14

やれやれ・・・綺麗でしょ!
皆さんは、せいぜいこの部分を眺めるだけでしょうか?
でも、こんな絵を見ないで済めば・・本当に幸せな事です。
本当に気を付けてくださいね!

 作業後の走行チェックはと言うと・・・
1.全体にキビキビとなる。
2.パワー感が戻ってくる。
3.作業前、特に冷間始動時に直径約1mの青黒い煙の塊が発生する症状が出ていたが、その症状が段々消えていく。
4.アイドリング時の排気ガスのガソリン臭が殆どゼロになる。
5.ポジションライトとヘッドライトが明るくなる。
6.同時に行なったスロットル洗浄の相乗効果もあり、3,400rpm2,500rpmのトルクの盛り上がりがはっきりと現れてきた。(→1,500rpmのトルクアップはほんの少しだけ体感出来る→これに関しては、今までカブりまくっていたため、燃焼室内にどっさりカーボンが溜まっているせいだと考えられる。)

まとめ:
今回の場合、破損箇所は非常に多いのに・・・ダメージの大きさとしては、非常に小さい物でした。
そのため、結果もあまり大きくなく、果たして?一般のオーナーが感じ取る事が出来るだろうか?と言う不安が残りました。しかし、少なくとも、私の感覚では、ハッキリした結果が出ているのは、間違いのない事実であり、もし、これを感じ取る事が出来ないオーナーであれば、更なる修理や作業は薦めない!と堅く決心して渡しました。

しかし・・心配するまでもなく、オーナーとしても結構体感出来たようで・・・良かった!良かった!ってことになりました。
(→オーナーのインプレッションも載せてあります。)